随筆 — 効率が奪うもの
By Nihongo PathUpdated
Strategy notes: read these before the passage
- Reflective essays alternate between abstract claims and a concrete episode. Note how the library story (paragraphs 3–4) is used to ground the definitional argument of paragraph 2.
- The librarian's quoted words are the emotional and logical hinge. A 指示語 question is likely to ask what 'that something' (何か) refers to.
- The final paragraph converts the argument into a rule (目的を語る = 何を守るために非効率を引き受けるか). Expect the 主張 question to be phrased in those terms.
Passage
「効率的に」という言葉を、私たちは一日に何度口にするだろう。会議は効率的に、移動は効率的に、学習も、育児も、休息すら効率的に。効率という価値は、いつの間にか、それ自体を疑うことが許されない位置にまで上りつめた。私はここで、効率に反対したいのではない。ただ、効率が何を「測っていないか」を、一度立ち止まって考えてみたいのである。
効率とは、投入に対する産出の比率である。定義上、それは目的が定まってはじめて意味を持つ。目的地が決まっていなければ、最短経路は存在しない。つまり効率は、目的を問う力を持たない。目的が正しいかどうかは、効率の外側で決められるべき問題であり、効率はそれについて何も語らない。ところが現実には、効率の追求が目的の吟味を押しのけ、「速く着ける場所」がいつのまにか「行くべき場所」になっている。
私がこのことを痛感したのは、ある地方の小さな図書館を訪ねたときだった。その図書館には、貸出の記録を残さないという古い方針があった。誰が何を借りたかを、返却された瞬間に消す。利用統計は取れず、蔵書の選定にデータは使えず、効率の観点からは明らかに劣っている。司書に理由を尋ねると、彼女はこう答えた。「人が何を読んだかは、その人だけのものです。私たちが便利になるために、それを預かる権利はありません」。
私はしばらく言葉を失った。彼女が守っているのは、効率の目盛りには決して現れない何かだった。読書の自由、詮索されない権利、あるいは、自分が何者であるかを他人に定義されない余白。それらは「産出」として数えられない。数えられないものは、効率の計算式の中では存在しないのと同じである。そしてこの図書館は、存在しないとされるものを守るために、意図的に非効率を選んでいた。
帰りの電車で、私は自分の仕事を思い返した。私はどれほど多くのものを、「数えられない」という理由だけで切り捨ててきただろう。会議で発言しない人の沈黙。手間のかかる客との長い雑談。一見無駄に見える回り道。それらを削るたびに、確かに何かが速くなった。しかし、速くなったその先に、私は本当に行きたかったのだろうか。
効率を語る人は、しばしば「余裕ができれば、大事なことに時間を使える」と言う。だが私の経験では、削って生まれた時間は、たいてい次の削減の対象になる。効率は自らを目的化する性質を持つ。それを止められるのは、効率とは別の原理——たとえば、あの司書の言う「権利」のような、譲れないものの存在——だけである。
効率は道具であり、道具は主人を選ばない。速く行くために使えば速く行けるし、間違った場所へ行くために使えば、そこへ速く着く。だからこそ、効率を語る前に、私たちは目的を語らなければならない。そして目的を語るとは、何を守るために非効率を引き受けるかを決めることに、ほかならないのである。
Vocabulary in this passage
- 上りつめるのぼりつめる
- to climb to the top
- 投入とうにゅう
- input
- 産出さんしゅつ
- output
- 吟味ぎんみ
- careful examination
- 押しのけるおしのける
- to push aside
- 痛感するつうかんする
- to feel keenly
- 蔵書ぞうしょ
- library collection
- 司書ししょ
- librarian
- 詮索するせんさくする
- to pry into
- 余白よはく
- margin, blank space
- 目的化するもくてきかする
- to become an end in itself
- 〜にほかならないにほかならない
- is nothing other than
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